だぶる

16/17
前へ
/18ページ
次へ
 なんだそれはと思われそうだけど、言い訳させてもらうとしたら、ぶっちゃけ俺はふだんからほとんど鏡を見ない生活をしている。  髪をセットすることもなければ、女みたいに化粧をすることもないし、ピアスや装飾品を付けることもない。  そりゃ洗面所に鏡はあるけど、顔を洗ったその手でタオルを手に取り、ゴシゴシ擦りながらその場をはなれてしまうし、歯磨きの間、ずーっと鏡で自分の顔を見るような趣味もない。  手鏡なんか持ちもしないし、もちろん写真を自撮りすることもない。  だから気付かなかった。  見覚えのあるその顔が、自分の顔だってことに。  なんてこった。 「…………?」  俺達が騒いでいるのに気付いたんだろう、桜の木の下でそいつが顔をあげた。 「…………」  そいつが俺を見た。 「…………」  俺もそいつを見る。  そっくりの顔同士が目を合わせた。
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加