だぶる

　最近ハマってるドラマをいくつか思い浮かべてみたけど、どれもピンとこない。
　もしかしたら全然有名じゃない小劇場の舞台俳優とか？
　いやいやいや、それこそもっとピンとこない。少なくとも俺はここ数年劇場になんて足を運んでないんだから。
　でも、じゃあ誰だ。あれは。

「おわっ！　もうこんな時間だ」
　やっぱり朝っぱらからぼんやり考え事なんてするもんじゃない。
　俺は時計を見て慌てて部屋に放り出していたカバンを引っ掴み、そのまま家を飛び出した。ベランダで洗濯物を干していた母さんが、食べた皿ぐらい洗っていきなさいって怒鳴ってたけど、そんなものはガン無視。
　走って走って。
　ようやく教室に駆け込んだ瞬間、朝のホームルーム開始を告げるチャイムが鳴り響いた。

「重役出勤ご苦労様。にしても朝から長距離走ですか？　もしかして陸上部に転向予定ありとか？」
「うっさいわ」
　悪友の冷やかしにすかさずツッコミを入れ、俺はカバンから教科書やノートを取りだすとほうっと一息ついた。
「……あ」
　ところで、いったん止まる。
「くそ。折り畳み傘、持ってきちまった」
　本当に朝っぱらからぼんやり考え事なんてするもんじゃない。