横取りされるぐらいなら

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一週間ほど前、飲み会で遅くなり終電で帰宅した夜のことだ。 いつものように跨線橋を渡って帰ろうと歩いていると、少し先をピンクのワンピースを着た女性が歩いていた。 ハイヒールのカツカツカツという足音を響かせ、女性は階段を昇って行った。 私も何気なく続いたのだが、跨線橋の上に女性の姿はなかった。 ――すぐ目の前にいたのに、どこ行ったの? 4本の線路をまたぐこの橋は、けっして短くはない。 変だなと思った瞬間、キキーっと耳をつんざくような電車のブレーキ音がした。 思わず耳をふさぎ、下の線路を見た。 だがどこを見渡しても列車など見えず、私は自分が乗ってきたのが終電だったことを思い出した。 どういうことかと戸惑う私の耳に、ハイヒールの足音が聞こえてきた。 昇ってきたばかりの階段の方からだ。 ――え?え? おそるおそる階段の方をふり返ると、ピンク色が見えた。 ――あ、これ、やばい! 私は全力でアパートまで走ったが、急ブレーキをかけたようなあの音は何度も聞こえた。 恐くて眠れなかった。 そして翌朝、外へ出て鍵をしめようとした時、気が付いた。 ドアに赤黒い手形がひとつ。 パニックに陥った私は泣きながら美弥子に電話した。 きっと支離滅裂だったはずなのに、彼女はわかってくれて 「心配いらないと思うけど、対処法を教えてあげる」 そう言って粗塩をくれたのだ。 びくびく過ごしたものの何ごともなく、恐さも薄れてきていたのだが…… さっき急ブレーキの音が聞こえた時、うっかりカーテンをあけて見てしまったのだ。 窓ガラスに映る私と、うしろに立つピンクのワンピースを着た女性を。
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