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第二話 〇〇下のおじさん
村の家々には、正式な住所とは別に、固有の呼び名があった。
正しくはその場所をさすもので、家ごとに呼び名があるわけではないので、屋号とも少し違う気がする。
ちょっと説明しようか。
村の民家はだいたい散居という形であり、住宅地のように固まって建ってはいない。だからといって単独でぽつんぽつんとあるわけではなく、屋敷林を共有するように二、三軒くっついて建っている家々が多い。
そういう家々がある場所に、ひとつひとつ、住所とも屋号とも違う名前が付いているのである。
架空の名だが、例えば「高井戸」と呼ばれる場所に二軒の家が東西に並んでいたら、東側の家は「高井戸東」西側の家は「高井戸西」と称される。東西南北のほかにも、前後や高低差で区別されることもある。
地元の人間なら、住んでいる者の名前や住所を言うよりも、その呼び名のほうが早く通じるし馴染み深い。
そんな感じなので、その家に住んでいる人間のことも、〇〇東のお婆ちゃん、〇〇前の息子などと呼ぶことが多いようだ。
ずいぶん前のことだが、父の実家の近くの高台に〇〇下と呼ばれる家があった。
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