彼女は村人

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 突然の大声に窓ガラスが割れる。体を縮めるエフィ以上に、ユフィは怯えているようだった。慌てて首を振り、違うのと繰り返し言う。彼女は傷つけるつもりはないらしい。その証拠に、エフィを守るようにして覆いかぶさっていた。 「好きよ。愛している。私の恋を否定しないで」  ぽたりと透明な雫がエフィの頬に落ちた。ユフィの涙を指で掬いあげる。次々盛り上がって落ちる涙は止まらない。エフィは困ってしまった。頭の片隅にあるのは、優しい姉さんのことだ。  これは夢。それとも現実。エフィは本当の自分がなんなのか分からなくなってしまっていた。何を信じればいいのだろう。頭の中がぐちゃぐちゃに混じっていて、自分の存在まで疑わしい。 「私の妹に触れないでくださる?」  姉さんの声だと弾かれたように顔を上げる。そして、エフィはさらに混乱することになった。姉はエフィと同じくらいの年齢だった。成熟しきった美女ではなく、妖しくも初々しい美少女。彼女は友達のカレンで、でも姉で。終わらない思考が遮られる。傷一つない滑らかな手に導かれて、抱き寄せられた。 「……ねえさん?」 「そうよ。姿が変わっても分かってくれるなんて、私たちはやはり運命で結ばれているのね。愛おしい妹。ずっと一緒に二人きりで過ごしましょう。安心して。何もかもすべて私が用意するわ」  両手を握りしめられ、頬に口づけが落とされる。ちろりと唇から覗いた舌に、心臓が高鳴った。  勢いよくユフィが割って入る。顔を真っ赤にして、反対側の頬へ唇が触れた。じろりと姉のことを睨みつける。 「張り合うなら唇にしてはいかが。初心な子には任せられませんわ」 「馬鹿なことを言わないで。エフィの気持ちを確認していないのに、そんなことはできないでしょう」  肝心のエフィを置き去りにして、二人は火花を散らしている。エフィは頭を押さえた。痛くてたまらない。じくじくと突き刺さるように痛む。 「わたしは、誰?」 「「私の妹」」  いいや、違う。  エフィは首を振った。そうだったらどれほどよかっただろう。でも、彼女はいつだって孤独だった。  二人と血縁関係はない。それどころか種族も違う。彼女はただの魔術師で、二人は人から恐れられている化け物だった。
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