本当は

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 真実の話をしよう。エフィールは魔術を使いこなすことに関しては天才的だった。誰よりも多くの魔力を持つ。ただし、化け物を引き寄せてしまうという困った体質もあった。そのせいで、誰も彼女のことを愛する者は現れなかった。  だから彼女は魔力を使いこなせるだけの自我が芽生えた瞬間に塔に閉じ込められ、化け物を討伐するための兵器として生かされていた。彼女の魔力は膨大で、殺すには惜しいと国の統治者に判断されたのだ。  外に出ることができないように視界を奪われ、拘束されて過ごしてきた。体がボロボロなのはなんども兵器として使われ続けてきたからである。者ではなく、物として大切にはされていた。偏った知識だけを詰め込まれ、愛を知らないままに歪に育った。  毎日襲い来る化け物たちを殺す日々。時には人間同士の争いに駆り出されることもあった。血を見ない日の方が珍しい。  そんな彼女がどうして化け物二人に捕まり、求愛されていたのかというと簡単だ。身の危険を感じた化け物たちが協力してやって来たせいである。  とても激しい吹雪の日。彼女たちはやってきた。塔を見張っていた兵士たちをすべて殺して、覗き込んできたのだ。 「だずげで」  兵士はエフィールの視界を遮る布を取り払って、絶命した。久しぶりに見たのは血走った目だったので強く記憶に焼き付いてしまっていたのだろう。  植物を身にまとった緑色の肌の女性と、いくつもの女の死体を縫い合わせてできた蜘蛛。珍しいお客様に、エフィールは確かこう尋ねたのだ。 「あなたは、だれ?」  エフィールは視界を遮られていたので、自分が殺している存在がどのような姿をしていたのか知らなかった。だからこそ、無防備に二人に向かって手を差し出し、触れてみたのだ。  エフィールは無知だった。魔力を効率的に操って相手を滅ぼすことはできるけれど、人間としての当たり前が欠落している。同じ人間だったら、その奇妙さに逃げ出すか排除していたかもしれない。だが、エフィールが初めて会話したのは化け物で、二人はすっかり彼女にやられてしまっていたのだ。
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