本当は

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 彼女の魔力は化け物にとってひどく魅力的に映るらしい。自分のものにしたくて近寄ってしまうのだそうだ。そして、化け物たちは自分だけが独占するのだと喧嘩した。それはもう、塔が傾いてしまうくらいに派手に暴れた。 「私が愛してあげるの。だって、彼女と私の姿は近いわ」 「そんなのは関係ない。私なら彼女の姉になることができる。姿を似せられるからな」  姉。エフィールはその言葉に興味を持った。深く考えることなく、口にする。それはあまりにも一人でいる期間が長かったせいだ。自分でもどこまで言葉にしていたのか覚えていない。 「わたし、姉とやらが欲しい」  そして、あれよあれよという間に勝負が変更された。エフィールの記憶をいじくって、妹として一定期間を姉として過ごす。彼女がどちらか一人を選べばその相手が勝利。ずっとそばにいることが許される。負けた方は二度と顔を見せない。  エフィールは景品として二人の化け物にさらわれた。塔が崩壊したのを最後に記憶が途切れている。  エフィールはお嬢様でもなければ、ただの村人ではない。  エフィールは頭から手を離す。そこは、深い霧に覆われた大地だった。ボロボロの倉庫なんてどこにもない。幻覚を見せられていただけだから、当然である。そこには、一般的な価値観があればおぞましいと言いたくなるような化け物がいた。 「思い出した」 「そ、そんな……」 「エフィ……」  花をぶちぶちと引き抜く女性と、顔らしき部分からたくさんの液体を流す蜘蛛。縋るような視線を向けられ、エフィールはため息をついた。置いて行かないでと訴える化け物たち。少なくとも、エフィールのことはただの人間としてみているわけではなさそうだ。  エフィールは二人の手らしき部分をそれぞれ握る。彼女たちは勘違いしている。特別な感情を抱いているのは自分たちだけだと思っているのだろうが、初めてまともに優しくしてくれた相手を無下にできはしない。 「わたし、恋をしてみたい。溺れて死んでしまいそうなほどの愛が欲しいの」
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