彼女はお嬢様

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 日差しが目に染みる。真っ白な布に埋もれていたエフィはううんと唸った。体温で温まった布団は居心地がよく、ほどよい怠さが彼女の眠気を誘う。浮き上がった意識が、再び沈もうとしていた。片手で枕を抱き寄せて、顔に押し当てる。このまま二度目しよう。エフィは睡眠欲に逆らわない。  エフィには起きなければならない時間がない。姉が来るときが、彼女の起きる時間だ。それまでは好きなだけ眠る。よっぽどのことがなければ、エフィはおとなしくベッドの中に転がってるのが普通だ。  しかし、外から子供の声が聞こえていつも通りが妨げられる。うるさいと顔をしかめたが、楽しそうな音楽と共に歌っているのだと気づいて枕を放り投げた。眠気も飛んでいく。  エフィはいつも退屈しているから、変わったことに人一倍興味がある。ぴょんと跳ねた金色の髪をそのままに、上半身を起こした。  その声はとても楽しそうで、エフィは一本だけしかない腕を伸ばした。しっかりとかけられた布団がずり落ちる。そんなことも気にせず、彼女は立ち上がる。傷だらけの足は見ていて痛々しい。そばに人がいれば、彼女に手を差し伸べたくなってくるだろう。  彼女は両手を恐る恐る差し出し、覚束ない足取りで進む。冷たい床に足が触れては体を震わせ、もふもふとした絨毯に触れて驚く。  彼女は足りないものがいくつもある。一つは右腕。もう一つは、視力。完全に見えないということではないが、それでも世界の形を捉えることができない。なんとなく色が付いたところで物を把握している。顔をしかめて物を確認し、声を頼りになんとか窓までたどり着くことができた。 「誰かいるの?」  ぐっと押したけれど窓は開かない。鍵がかかっているようだった。つまらない。躍起になって鍵を引っ張り、押し込む。適当にガタガタと揺らせば、甲高い音がしてほんの少しだけ開いた。  隙間から音を聞くために耳を出す。子供たちの笑い声と、湿った音がした。きっと、泥遊びをしているに違いない。怪我をしているから外へ出てはいけないと禁止されているのだ。せめて遊んでいる姿だけでも見たいと、エフィは外を覗く。眼球が目の前にあった。どれだけ目が悪くても間違いようがない。これは人の目だ。 「っ」 「だずげで」
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