彼女はお嬢様

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 心臓がバクバクとうるさい。エフィは目を丸くして固まっていた。そして、急激に不安になる。もしかして、外では泥遊びではなくいじめが行われているのではないだろうか。  エフィがいた村でも、子供たちはより弱い子供をいじめて楽しんでいた。飢えと過酷な環境のストレスを発散させるため、残虐に、無邪気に、相手をいたぶる者たちがいた。 「あれ?」  エフィは首を傾げる。当たり前のように考えていたが、村とはなんだろう。そんなもの、知らない。  エフィは姉と二人っきりでこの屋敷で過ごしている。彼女はとてもひどい大けがをして、つい最近まで眠り続けていた。両親は化け物によって殺された。エフィも瀕死で、たまたま外に出てきた姉が駆け付けなければ死んでいたかもしれなかったらしい。  だから、飢えたことはない。両親と姉の愛情を一心に受けて、育ってきたのだ。  なぜだかずきずきと痛む頭を抑える。それでも、いじめを止めるために再び窓に近寄った。笑い声が頭の中に何度も反響してやかましい。つんとした匂いに頭がさらに痛む。この匂いをエフィは知っている。いつもそばにあったものが発するのだ。 「ねえ、大丈夫? どうしたの? 痛いの?」  痛いけれど、それ以上に気になるのだ。不安と好奇心がごちゃ混ぜになる。心配でたまらない。エフィは再び外を覗こうとしていた。 「こら、汚れてしまうでしょう?」  痛みが止まった。姉のカレリアだ。エフィは声がした方向へ顔を向ける。エフィよりも高い人影がそばにいた。目を丸くして姉を見上げ、むっと唇を尖らせる。 「姉さん、入って来るなら声をかけて」 「あら、ごめんなさいね。寝ているかと思ったの」 「また寝顔を見ようとしたの。悪趣味よ」  どこに出しても恥ずかしくない淑女なのに、姉はやや過剰なほどエフィへの愛を示す。これもまた、それに含まれるのだろう。手首を握って窓際へ行こうとするのと止め、窓を閉め切ってしまう。曇りガラスであるため、外の様子を伺うことはできなくなってしまった。  姉はエフィの膝に手を差し込んで体を持ち上げる。力持ちを自称しているだけあって、その運び方は安定していた。触り心地のいい赤いドレスを握りしめる。近づくと分かる甘いはちみつに似た香り。  ふんわりとした黒髪が頬を撫でる。くすぐったくて、肩を竦めて笑ってしまった。動けないでと優しく囁く姉とは逆方向へ顔を背ける。
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