彼女はお嬢様

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「わたしのことはいいの。それより、窓の外よ。外で遊んでいる子、誰かいじめているの? 誰だか分からないけど、たすけてと泣いていたわ」  姉はいつもエフィが使っている櫛を使い、寝ぐせをなんとかしようとしていた。強情な金色の髪を梳かしていく。ほっそりとした指が絡まった髪を丁寧に解し、花の油で艶を出す。整えられていく髪にエフィはご機嫌だ。  背中には姉のぬくもりがあって安心する。エフィは甘えた声で姉に寄り掛かった。 「あら、そうなの?」 「そうよ。私が間違うはずがないわ。たしかに子供の声がしたの。泣いていた子、大丈夫かしら」  両手を合わせて握りしめようとして、一つしかないことに気づく。手持ち無沙汰になった左手を膝の上に置いた。 「エフィは優しいわね」 「姉さんの方が優しいわ。だって、役立たずな私の世話をしてくれているし、ユフィも……あら?」  ユフィ。口から出てきた名前は知らないはずなのに、胸を掻きむしりたくなるほど切なく感じた。大事なことを、忘れている気がする。大切なことを思い出せない気がする。  姉の手が止まった。櫛を箱の中へしまう。箱が閉じる音がやけに大きく聞こえた。外も異様に静かだ。  重苦しい沈黙に、体が震える。汗が額から滴り落ちた。 「ユフィ。誰だったかしら」 「エフィ、疲れているのよ。外がうるさかったせいね。あなたのお気に入りのお人形さんのことかしら?」 「そう、かしら?」  そうだったような、違うような。腹の底から訳の分からない熱い感情が湧き上がる。怖くなって、蹲った。
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