彼女はお嬢様

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 姉はエフィのことを抱きしめる。ぶわりと強くなった甘い香りに手繰り寄せようとしたものが遠くなって行く。その事実にエフィは焦っていた。必死になって取り戻そうとしているのに、消えていく。先ほどまでの衝動が嘘のように消えていた。  心がとても穏やかだ。眠い。ついさっき起きたばかりなのに、体が重くなってくる。視界が揺れて起きていられない。とてもじゃないが、逆らうことはできそうになかった。体が傾く。 「いいのよ。貴方はまだ怪我人なんだから。無理してはいけないわ」 「でも、わたし。姉さんの役に立ちたいの。ベッドにいるだけなんて嫌よ」 「ありがとう。でもね、エフィ。そのままの貴方でいて欲しいの。変わらなくていいわ。ずっと姉さんと一緒にいましょう。ここには、貴方を害する存在なんていないのですもの」  放り出された枕の代わりに、姉の膝へ頭を乗せられる。エフィは瞼をこじ開けようとしていた。姉はエフィの目を手で隠し、とんとんと心地いいテンポで胸を叩く。一度でも瞼が閉じられてしまえば、開けることは難しい。  添えられていた姉の手が頬を撫で、顎を滑り、首で止まった。すりすりと指先で撫でられ、背筋が寒くなる。身じろぎして、逃げようとした。 「そのままで、ね?」  小さく芽生えた反抗心が飲み込まれる。ぐるぐるぐるぐる、暗い闇の奥へ放り込まれてしまう。嫌だ。辛うじて動いたのは片手だけ。姉の手に爪を立て、エフィは大きく息を吐き出した。 「ああ、可愛い子。時間切れね」  姉は悔しそうに親指の爪を噛む。目をつむる彼女の首に力を込めた。
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