彼女は村人

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 エフィは泣いていた。怖くて痛くて、涙が止まらない。目玉が涙と一緒に溶けてしまいそうだ。ひくりと喉の奥が引きつる。はあと吐き出した吐息は白い靄となって天井へ逃げてしまった。  どうしようもなく、エフィは孤独だった。  窓の外は真っ白な雪で埋め尽くされていて、本来は外の景色が見えるであろう窓も凍り付いてしまっている。ぼんやりとうかがえるのは、黒い影がうろうろと歩いていることだ。 「出て来いよ。ここにいるのは分かっているんだぞ」  どんと木製の扉が軋む。パラパラと木片が飛び散った。風が雪と共に室内へ割り込む。ひ、とエフィは悲鳴を上げようとして口で封じた。声を出してはいけない。ここにいると知られれば、やつらが入って来てしまうからだ。 「出て来い」 「出て来いよ」 「逃がさない」 「おとなしくしていれば許してやったのに」  嘘だ。そんなわけない。だって、彼らはエフィに対して残酷だった。この厳しい環境では食べ物を口にすることさえ難しい。そんな状態を先人の知恵でなんとか過ごしていた。  食べ物は何にも代えがたいほど貴重なのに、彼らはエフィの食事を奪っていく。そして、エフィが必死に取り返そうとする姿を笑うのだ。酷い時には暴力を振るわれる。彼らにとっては多少小突いた程度でも、小さいエフィには大きな衝撃だった。だから、エフィは傷跡だらけである。  それもこれも、エフィが弱いからだろう。双子の姉であるユフィはそもそも食べ物を奪われるようなことはないし、エフィと違って体も弱くない。しかも、同じ顔であることが信じられないくらい美しいのだ。皆言わないけれど、顔を見ればわかる。ユフィは愛されているのだ。ちっぽけでがりがりなエフィと違って。  そんなことを言ったら、ユフィは怒るだろうか。怒るに違いない。彼女はエフィのことを大切にしてくれる。ユフィはエフィのことを大好きだし、エフィもユフィのことが大好きだ。こんな風に一人で隠れている時はいつも、ユフィが迎えに来てくれた。  でも、今はいない。きっと助けに来てくれないだろう。
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