夏の友だち

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夏の友だち

それまでの6時間ある時間をライブハウスに行ってみようかと思いついた俺。 未だ開店はしてないだろうから簡単に覗けるかもしれない。そんな気軽な気持ちだった。 鴨川を渡り雑然とした繁華街を通って、市の真ん中を走る地下鉄に乗れば丸太町には着くだろう。そんな算段する自分がおかしい、初めての街なのに初めてじゃないみたいなそんな気分にさせる川沿いの道をぶらぶらと歩いて行く。 人の熱気と喧騒に蒸しあがったような状態の車内を我慢すること数分で丸太町に到着する。幾分人が少ないのはこの駅から有名どころに行く人が少ないせいかな。 整然と大通りに直行し並ぶ横道を一本一本探りながら進むと小体なビルの一階の扉に店の名前があった。 ハンニバルと扉に書かれている店の奥はまだ暗くやはり営業前のようだった。 「 何か…… 」 と後ろから声をかけられる。 振り向いた俺の前には同年輩の男性が立っていた。 長身でやたらと細長い印象のその男性は俺を見ると破顔した。 「 あ、もしかしてジュンヤさんですか?」 「 そう、ですが 」 「 俺、朝倉って言います。ドイツに行った周と景の友人です 」 「 あ、ひょっとしてこの店の?」 「 そうですそうです。周から連絡が来てジュンヤさん、あ、ごめんなさい。いつも碓氷達がジュンヤさんって言うから、俺まで気軽に名前を呼んでしまって 」 「 いや、構わないよ 」 「 それで来てくれたんですね!」 「 うん、まぁ夕方から人と会うんだけどそれまでちょっと寄ってみようかな、とか……」 言葉は尻窄みになる。失礼だよな、まるで暇つぶしのような言葉になって、少し焦った俺の様子を全く意に介さないようにその朝倉という男性は続けた。 「 寄ってください、今店は開けますから 」 店の扉の鍵を開けると俺を中に入るように促した。 予想外に店の中は涼しくて. 「 エアコン付けて行かないと帰って来た時に死にます 」 笑いながら話す朝倉君という彼はとてもいい感じの人間に見えた。
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