花火大会の後

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   病院の屋上から夕日を眺める。 あれから一週間。筋力も回復して普通に動けるようになってきた。あの事故のときのことも思い出したしたのだ。  あれは花火大会の帰り道。青信号をスマホ片手に渡ってきたときだった。周囲から怒号が飛び交ってふと気がつくと車が猛スピードで突っ込んできたのだ。  後にわかったことだが運転手は病気の発作により意識を失ったらしく、アクセルを踏みっぱなしで車が暴走したようなのだ。最期は猛スピードで電柱にぶつかって死んでしまった。死傷者は数十人を軽く越える大騒ぎとなっていた。  あの車が飛び込んできた一瞬。コンマ1秒反応できて辛うじて筋肉に防御命令が出せたのかもしれない。反応していなければそのまま死んでいたように思えた。  あの死の境界線をさ迷っていたときに見た夢も覚えている。あのとき祖母に止めてもらっていなければあの駅で降りていたかもしれない。あのスマホ片手に降りていった人たちは、今回の事件で死に抗いきれなかった人たちなのだろうか。  ホームに立ち尽くすスマホを見ていた大勢の人達も無念の死を遂げたのかもしれない。自分もスマホを見て立ち尽くす様を想像するだけで身震いが止まらない。あの人達は永遠にあそこから出ることができないのだろうか。  夕日も沈み、さぁ戻ろうかと松葉杖を片手について階段に向かう。祖母に救ってもらったこの命、何か世の中のために役立てたいと切に思う。スマホはポケットに忍ばせるに留めようと心に決めたのだ。  
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