パラドックスチェリー

1/11
前へ
/151ページ
次へ

パラドックスチェリー

もうダメだと覚悟を決めた瞬間、ガレージのシャッターをドンドンッ!!と何回も叩く音。 次にドンッ!と蹴破るような大きな衝撃があって、一瞬建物内はシーンと静まり返った。 また仲間でも来たのかもしれないと怯えていたけど、男たちが慌ててたからきっと違う。 「ーーナナ!!」 蹴破った場所から現れたのはハチ。 私は恐怖で幻でも見てるんだろうか。 ここにハチがいるわけない。来るわけがない。 でもでも……。 「……うぅ……ハチ……」 幻でも夢でもハチの顔を見たら一気に力が抜けて涙がでた。 「な、なんで瞬が……」 栗原先輩の動揺した声が耳に聞こえた。 「お前だれ?」 「ここ部外者は立ち入り禁止なんだけど」 標的は私からハチになって、その鋭い眼差しがハチに向けられた。それでもハチは真っ直ぐに私のほうに歩いてきて、目と目が合った。 ハチがなにを言いたいのか、私がなにを言おうとしてるのか、お互いに以心伝心した気がした。 「ナナ。俺がいいよって言うまで目瞑ってて」 「……」 「お願い。すぐ終わるから」 本当は逃げてって言いたかった。 だって私はハチが傷つく姿は見たくない。だけど私が傷ついたらハチもたぶん一緒に傷つくと思うから。 だから私はハチの言うとおり目を瞑った。 見えるはずないのにハチの安心した顔が見えた気がして、私はただグッと拳に力を入れた。 バコバコと鈍い音が耳に聞こえてくる。 怒号と静けさの繰り返し。 きっとハチは喧嘩してる姿を私に見せたくないんだね。ハチは平和主義だからこんなこと得意じゃないはずなのに。 ごめんね。ハチ。 怖いなんて言う資格ない。 ハチにこんなことまでさせて本当に私はバカだ。 だけどハチを見た瞬間、安心した。 それは心から、言葉では言い表せないくらい。
/151ページ

最初のコメントを投稿しよう!

196人が本棚に入れています
本棚に追加