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本当に、申し訳ない。
申し訳なくて、泣きそうな顔で突っ立っていると、彼が急に笑い出した。
「ふふ…ふはは…あはははは」
「な、なに?」
今度はわたしが不思議に思う番だった。
「指輪なら、俺持ってるよ。えーと…はい」
彼はジーパンの尻ポケットから、すっと銀色のものを取り出した。
わたしが彼から貰った指輪だ。
彼の手の中に、わたしの指輪がある。
わたしはぽかんとした。
さっき不思議に思った以上に、不思議に思う。
「え?なんで?」
「だって、持っててって言ったじゃん」
「え?いつ?どこで?ていうか、なんでだっけ」
彼を質問攻めにする。
「あれ、なんでだっけ。忘れた」
彼は、指輪の在処を知りながら、わたしが慌てて焦って探しているのを楽しんでいたのだ。
憎たらしい。
「もう!持ってるなら持ってるって、最初から言ってよ!」
わたしは、彼の胸をどんと叩いた。
「ほんと、今朝から焦ってたんだから!しかも寝坊しちゃったし!」
「はは、探してるお前もかわいかったけど、なんか想像すると笑える。もっとかわいい。お前らしい。でも、寝坊したのは関係ないだろ」
褒められているのか、貶されているのか、わからない。
怒りとまではいかずとも、なんだかもやもやした気持ちになった。
憎たらしい。
でも、そんな彼が好きだった。
焦って焦って、もうどうしようかと思うくらいなのだ。
わたしは彼のことが本当に好きなんだ。
なんだかそれを実感した気がした。
最後に、彼はわたしの左手の薬指にその指輪をはめて言った。
「もう、なくすなよ」
「…はい」
誰のせいだよ、と思いつつ、わたしは今朝から幸せな気分に浸っていた。
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