指輪

　昨日シャワーを浴びたときにはずしてそのままなのかも。
　洗面所。
　ない。
　食事を作ったときはどうだったかな。
　キッチン。
　排水溝の中ものぞいてみた。
　ない。
　リビング。
　「いったぁ！」
　テーブルの脚を使って、左足の小指でサッカーをしてしまった。
　かなり痛い。
　目から涙が出た。
　しかし、そんなことで泣いている場合ではない。
　気を取り直し、テーブルの上も、確認。
　ない。
　そして、ゴミ箱をひっくり返してみる。
　丸まったティッシュペーパーや、郵便受けに入っていた無駄なチラシ類がばさばさと落ちてゆく。
　ない。
　パソコン机の上も見てみる。
　ごちゃごちゃしていて、わたしの性格が露わになっている。
　探しているのに、ペン立てを倒したり束になった紙類を崩したりして、更にごちゃごちゃになってしまった。
　ごちゃごちゃの中を探してみたものの、ここにもなさそうだ。
　部屋中探しても、指輪は見つからない。
　どうしよう。
　わたしは途方に暮れた。
　たかが指輪ひとつじゃないか。
　他人はそう思うだろう。
　しかし、わたしには大切なものの中のひとつなのだ。
　わたしが混乱している中。