指輪

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 ピンポーン。  彼だ。  どうしよう、まだ指輪、見つかってない。  「はーい、今開けるね」  平常心平常心!  とりあえず、謝らなきゃいけない。  正直にならないと。  部屋のドアを開けると、いつもの彼が立っていた。  背景の空は青い。  「よ!」  彼は爽やかな笑顔をわたしに向けた。  そんな顔でわたしを見ないで!  そしてわたしは、すぐに行動に出た。  「ごめんなさい!」  頭をおもいきり下げる。  「ん?なに?どうしたの?」  不思議そうにわたしを見る彼。  その顔には微妙な笑顔も含まれていた。  そりゃ、急に謝られては不思議にも思うだろう。  「あの指輪、なくしちゃったの」  わたしは恐る恐る告白した。  「指輪?」  「うん」  彼は、わたしが頭を下げるため身体の前に揃えられた両手の、左手を掴んで見て、言った。  「ああ、あれね」  彼はにやりと片方の口角を上げる。  なんだその顔は。  「しょうがねぇなぁ。ほら、一緒に探してやるよ」  「うん、ごめん」  わたしはしょんぼりした。  でも、彼にはそんなに怒ったり悲しんだりしてる様子はない。  いつものことだ、といったように微笑んでいた。  なんだこの優しい生き物は。  わたしは思った。  そして、二人で部屋中探す。  やはりない。  さっきも探したが、ベッドの中にも、キッチンにも、洗面所にも、リビングにも。  わたしははっと思った。  もしかしたら間違って捨ててしまったのかも。
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