風呂場の男

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 俺は妻の肩をつかんだ。今度は俺が震えだす番だった。 「そいつは、どうして死んだんだ」 「お父さんとお母さんに、私たちにしているところを見つかったの。責められたその夜、あいつは首を吊った」 「それで後悔して守ってくれてるとか、そういうんじゃないか?」 「そんなわけない! そんな奴じゃない!」 「じゃあ、お前を恨んでいるのか?」  妻は顔を上げた。俺の目を見て、首をゆっくり横に振る。  あなただって、わかってるでしょ?  そうだ、あいつは四歳の子供の出入りする風呂場に出る。  妻の手の中、紙の上の男の顔が嘲笑うように歪む。  あいつは自ら、裁かれない場所に行ったのだ。
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