風呂場の男

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 俺は絵を妻に見せ、引っ越ししたいと打ち明けた。おおげさだと笑われてもいい。息子を守ってやれるのは、親である俺たちしかいない。  妻は驚き、俺の手から絵をひったくった。 「これ、私の祖父だわ。間違いない。小学校の頃に亡くなったの」 「へぇ。そうだったのか」  俺は胸を撫でおろした。  身内だと思うと、見えない不気味なものが、急に暖かく感じる。 「なにも風呂場に出なくてもいいのにな。見守ってくれるのは嬉しいけど、俺まで見られて恥ずかしいよ」  妻は青い顔で、首を横に振った。 「違うわ。祖父は、子どもが好きだったの」 「だから息子を守ってくれてるんだろ?」 「違う! 祖父は、あいつは」  震える手が強く握られ、紙に皺を寄せる。 「――ヒゲがくすぐったくて、嫌だった。何をされているかもわからない私と弟を、あいつは裸にして、身体を……写真まで……!」  妻の悲痛な声は、最後はかすれていた。
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