風呂場の男

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風呂場の男

 四歳になる息子が、何もない空間にしゃべりかける。 「じじ、じじ!」  風呂の水をすくいあげては、壁に向かってかけている。  しかし、そこには誰の姿もない。  風呂上りに、その『何か』を描かせてみた。サンタクロースに似た、口髭の禿頭の男だった。その男が、浴室の隅に立っているのだという。 「じじ!」  子どもの空想上の友人、イマジナリーフレンド……にしては、ずいぶん年がいっている。  まさか、幽霊か?  浴室を覗いてみても、俺には乳白色のユニットバスしか見えない。しかし、見えないから、感じないからと放っておいていいのだろうか。  子供だからこそ見えるものもあるという。  見てくれるから、話が通じるから――そんな理由で子供を連れていってしまうものも。  じとり、と背に汗がにじんだ。どこよりも安心できたはずの我が家が、急にそらぞらしく、不気味に思えた。
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