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俺、鳴滝青砥は偏差値68。そう悪くはない方だと思っている。お父さんと同じ警察官になるには、このくらいあれば十分なはずだ。中学三年生の夏は厳しい。その理由は、俺より親の方が受験を楽しんでいるからである。まるで甲子園野球の応援をするかのように、選手にプレッシャーを与えてくる。サポーターは協力者なのか敵なのか、わかったもんじゃありゃしない。事実、俺の隣に居るこの明星佑は、そのプレッシャーで、半分くらい壊れてしまった。
……俺は佑が壊れたという事にしたいのかもしれない。「佑自身は悪くない」と、思うには、壊れた事にするのが手っ取り早い。最近の彼は、変なんだ。生垣の葉っぱをほんの少し、はさみで切ってしまったり、ゴミ箱の中身を床に散らかしては、また掃除し直したりする。そして今日、ついに佑は犯罪に走った。近所の小さなスーパーで、100円にも満たないお菓子をポケットにしまったまま、彼は店を出た。慌てながらも俺は、お菓子売り場に100円玉を置いて来たから、佑の償いは俺がしたと思っている。レジを通さないといけない事は、わかっているんだけどね……。そして、今隣に居る佑は、どこを見るでもない目でうつむきながら、口元だけ笑っている。こんな佑に、俺はなんて声をかければいいのかわからない。
家に帰るつもりだったけど、俺たちは公園のベンチに座った。部活帰りによくここで、ダベっていたのを思い出す。
「案外平気なもんなんだなぁ」
沈黙を切り裂き、佑がそう言った。俺は、全然平気じゃないと思う。どうしたものかと思いつつ、とにかく会話のネタを探した。
「どうして、俺も巻き込んだの?」
「なんでかな……わからないや」
俺は学校帰りに「ついて来てほしい」と言われ、共謀者にさせられた。正直な所を言うと、こんな事に巻き込まないでほしかった。こういう事は、一人で勝手にやってくれって思う。俺がついて来なければ、佑は勇気を出せないまま、素直に家に帰ったんじゃないのだろうか。俺は、何を後悔すればいいのかわからなくて困っていた。
「俺、佑がやった事、いけない事だと思う」
「そんな事、俺だってわかってるよ。わかってるから……」
「ごめん。わかってるなら、いいんだけどさ……」
わかっていたらいいのか、俺? 佑は立ち上がって帰途についた。俺は、佑の罪を共有した自分を、持て余していた。
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