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「え?ええと、そうですね。まあ、鈴原さんの言うことも一理ありますが、まだはっきりとした事は言えません。皆さんの意見を聞いて総合的に判断していきましょう」
刑事は突然、ジャッジを迫られて少し慌てたものの、そこは本職の刑事なのでイエスともノーとも言えない段階である事を説明した。
「ということよ」
別段自分の推理が合ってると言われた訳でもないのに、なぜか誇らしげに鈴原園子は腕組みをして締めくくった。
「今井さん。その数回の会話ってどんな内容だったんですか?」
「そうですね、たわいもない話ですよ。演劇に興味があるみたいでした」
「……具体的にはどのような?」
「具体的にですか?そうですね。台詞の言い回しについてとか」
「台詞の言い回しね、そりゃ結構突っ込んだ話ですね」
「まあ、そうですね、だから本当に演劇に興味があったんだと思いますよ」
「どんな台詞ですか?」
「え?そこまではちょっと覚えてないです、すみません」
「そうですか、因みにどんな演目なのですか?」
「ちょっと説明が難しいですが、とある古典を現代風に意訳したものです」
「はぁ、古典ですか……因みに私が聞いてもわかりそうな部類の古典ですか?」
刑事は少し戯けた様に聞いた。
「わかると思いますよ、有名な作品です。人間失格ですから」
それを聞いた刑事は驚いた様に目を見開いた。
「あの、何か僕おかしなことを言いましたっけ?」
刑事の反応に少し慌てて今井翼はそう訊ねた。
「え?いや、その……なんでもないんです」
そう言うと刑事は取り繕う様に笑顔を見せた。
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