第二の証言

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「それにしても……」 友人の園子を呼び出した後、森居蘭は思案顔で呟いた。 「なんでしょう?」 どんな小さな事でも聞いておきたいという様な姿勢で刑事は身を乗り出した。 「あの教授に限って人を(あや)めるなんて…信じられません」 あやめるなんて古風な言い回しをよくしってるなぁ、とちょっと感心しながら 「なぜ、そう思えるんです?」 と訊いた。 「それは……太宰治なんですよ」 「え?なにがです?」 「ちょっと風貌が太宰治に似てると思いませんか?」 刑事は教授を思い出す事に成功したが太宰治がどんな風貌であったかを思い出すのに少し手間取った。 「あっ……まぁ言われてみれば…」 「でしょう!!!」 森居は共感してもらった嬉しさで思いの(ほか)大声になった様だ。 周りの数人の学生が一瞬立ち止まってこちらを見たので恥ずかしそうに体を(すく)めて小声で続けた。 「……やっぱりそう思いますよね?」 「ええまぁ……しかし、太宰治に似てるからと言って人を殺さない理由にはならないかと…」 刑事は淡々と返した。 「いえ、それがあるんです。あの風貌は偶然似てるって事じゃなかったとしたらどうですか?」 「はい?」 「つまり、わざと!似せていってるんですよ!」 森居蘭はまた少し興奮して声が大きくなりだした。 「まぁまぁ、落ち着いて……もしそうだとしても、やっぱり殺人を犯さない理由にはなりませんよ」 刑事は冷静に返す。 「信者なんです」 「え?」 「太宰治の」 「誰が?」 「教授に決まってるでしょう?」 「なるほど……それで?」 「つまり人間失格の信者」 「はい」 「つまり……自殺願望があるようなナルシストなんですよ」 「……なるほど……面白い」 「でしょう?」 刑事は自殺願望がある人間をナルシストといった森居の考えを面白いと言ったのだか敢えてそこは説明しなかった。
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