新居

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社会人3年目。私はようやく大学生の頃から住んでいたボロアパートを引き払い、それまでよりやや都心に近い新築マンションに引っ越しました。 マンションは6階建で、私の部屋は2階の端。角部屋の隣です。まだ借り手がついていない部屋がポツポツあるほど真新しく、1番最初の入居者であることにもちょっとした優越感がありました。 引っ越しから3日後、仕事を終えて帰宅した時の事。部屋に帰ろうとマンションの階段を登っていると、上から黒いワンピースを着た綺麗な女性が階段を降りてきます。 挨拶をするべきかどうか、一歩一歩階段を登りながら悩んでいました。すると 「こんばんは。」 すれ違いざまに彼女の方から挨拶されました。 「こん……ばん、は。」 私はビックリして、なんだかぎこちない返事になってしまいました。 当然マンションにはエレベーターもあったのですが、自分の部屋が2階ということもあり、足を使った方が早い気がして階段を利用していたので、もし彼女も住人なら同じ2階の可能性もあるんじゃないか、と淡い期待を抱きました。 こうしてたまにマンションの中で挨拶を交わすようになり、彼女の事が気になり始めていた私は、ある時、次会ったら頑張って何か話しかけてみようと決心したのですが……うまくいかないもので、話しかけるぞと意気込んでからというもの、ピタっと顔を合わせることがなくなりました。 よくよく考えると、私は彼女が部屋から出ていくところも部屋に入るところも見たことがなく、住人では無かったのではないか?と思い、勝手に落ち込みました。 丁度その頃からです。毎晩、夜中になると隣の部屋から ……ア"ァァァァァアッ! ……ア"ァァァァァアッ! ……ア"ァァァァァアッ! という悍ましい叫び声が聞こえてきて、目が覚めるようになっていました。何かを壁に投げつけるような音や、ゴンッ、と床に物が落下するような音と共に決まって20分~30分は聞こえ続けます。 ……ア"ァァァァァアッ! ……ア"ァァァァァアッ! ……ア"ァァァァァァァァァァアッ! 仕事も忙しい時期でしたし、眠れないからいい加減にしてくれ、と思ってはいたものの、どんな人間かも知らない隣人に文句を言いに行く勇気などなく、日々、声が聞こえなくなるまでただただ我慢していましたが、声のする頻度は2日に1回、3日に1回と、次第に少なくなっていきました。
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