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「絶景絶景。人も来ないし、ちょうどいいね。ではでは、早速やってみちゃう?」
韮瀬は腰くらいの高さしかない手すりのような所に腰かけ、ブレザーの内ポケットから、小さな容器を取り出した。私は興味ある素振りでそのすぐそばまで近寄る。その時だった。
「なんつって、いきなり不意打ちっ」
突然、韮瀬は手の中の容器のフタを開けざま、私の顔向けて中の粉末をぶちまけてきやがった。立ち込める粉を思い切り吸い込んでしまう私。
「びっくりした? ねえねえ、これ嗅ぐだけで効いちゃうんだから! さあさあ見せてよキミの痴態をぉぉぉぉっ」
頭がクラクラしている。けど残念。体質なのかな? 私、「これ」そんなには効かないんだよなぁ。
それでもご要望通りに、足元をふらつかせたりしてみる。そんな私の姿を間近で見ようと、韮瀬のにやけた顔が迫る。この時を待ってた。
「えでぇええええっ!?」
しなやかな動きで、韮瀬の顔目掛け飛び掛かる。そして爪でその目を思い切りひっかいてやった。顔を抑え、呻く韮瀬。立ち上がりかけたその顔に向け、もう一度研ぎ澄ました爪をお見舞いしてやる。前言撤回、マタタビは私を凶暴にさせるのかも。
「がっ……、えっ? ちょ……」
そこからの言葉は聞こえなかった。手すりに膝裏を取られ、それを乗り越えた韮瀬の体は、ふ、と消えるように落ちていったから。
のりぃん、そしてあんま親しくはなかったけど立井須カンナ。
……仇は取れたかな。
私は抜けるような青空を見上げ、ニャア、とひと声鳴いた。
(終)
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