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男を良く見ようと下半身を動かすと、ぐったりとした様子だった男はカッと目を見開き、何かを唱えたと思ったら、私の掴んでいる物が大きくなる感じがした。
それは私の手から逃れようと激しく動いている。
「ごめん、何を掴んでいるか見えないから、何のどこら辺を掴んでいるかもわからないんだけど、このまま握り潰しても大丈夫なやつかな?」
私がそう言って両手で掴もうとしたら、掴んでいる物の動きが止まった。
「やれ!何をしている!!」
男から厳しい声で叱責が飛ぶと、また掴んでいる物が動き出した。
「お前たちも行け!!早く!!」
多分、男に向かって投げつけた物たちが、復活したのか、また私の体にガツガツと攻撃を開始した。
「私にあなたの攻撃は効かないよ」
そう伝えると、男は返事をせずに何かを呟く。
次の瞬間、全身にビリビリと痺れたような衝撃が走ったが、一瞬だけで終ってしまった。
男はニヤリと笑っている。
「何?」
私が男に向って言うと、男は顔色を変えて何度も何かを唱える。
その度に全身にビリビリが走るが、スーパー銭湯の電気風呂に入ったような感じで、気持ちよくなってきた。
「あー、気持ちいいみたい。もっとやって?」
男は口をポカンと開けて、唖然とした様子で私を見上げている。
「力の種類が違うからか、霊能者の攻撃は効かないみたいなんだよ。
だから、いくらやっても無駄だし、そろそろ降参してもらえるかな?
ちなみに、式神も私には見えないから、怪我させてたらごめんね」
私が言うと、男は表情を引き締めて一瞬考えたあと、小さく頷く。
「うん、じゃあ離すからね」
男をそっと降ろし、私の下半身が離れた途端に、男はその場に腰が抜けたようにへたり込んだ。
「…何なんだ、あんたは…!」
へたり込んだ男の体は疲れているように見えるが、まだやれるといったような顔つきをしている。
「何かと言われたら、邪神だよ、一応」
「じゃしん?」
「そう、邪(よこしま)な神」
「よこしまなかみ…じゃしん…邪神!?」
男の問いに答えると、男は驚いて座ったまま少し飛び上がった。
「邪神といっても、別に禍々しい神って訳じゃないから。
それよりも、あなた強そうだよね?
霊能者の中では強い方なの?」
「は?…ああ、霊能者の中ではトップレベルだと自負している」
「そうなんだ!じゃあ、そんなトップレベルの霊能者の攻撃を受けるなんて、なかなか貴重な機会だったんだねぇ」
私の様子を見て、男は苦笑した。
「何なんだよ本当に…
負けた負けた!あんたの勝ちだ!俺を殺すつもりはないんだよな?」
男は伺うような視線を私に向ける。
「何ですぐ殺す方向に話がいくの。殺人事件になっちゃうでしょ!」
「事件ってあんた…この社会の事を知っているんだな」
「そりゃ普通に生活してますからね」
「普通に生活…?」
何となく加味さんとも繰り返したような会話をして、改めて、私の話に不思議そうな顔をしている男を眺める。
男は立ち上がり、どうやら式神を手元へ呼び寄せているようだ。
やはり30歳前後の若い男で、下手したら竜也と同じ位の年齢のようにも見えた。
霊能者の世界も色々あるのだと思うが、介入した以上、釘を刺しておかないと。
「ねぇ、捕まえてた式神がいたでしょ?
その主と少し縁があった関係でつい手を出しちゃったんだけど、何をしてたの?」
男は少しだけビクッと動き、ノロノロと顔を上げて私を見た。
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