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一日だけ、駆け落ち
あの日から、カレンダーを見るのが怖い。
学校の帰り道、琥珀色に染まる夕焼け空を眺めながら胸がぎゅっと苦しくなるのを感じて下唇を噛み締める。
また一日が終わってしまう。鼻の奥がツンとして、滲んだ視界を隠すようにわざと大きな欠伸をした。
「すっげーでっかい欠伸だ」
「うるさいなぁ」
当たり前のように隣を歩くアキラと私。
一定の距離を保っていて、肩は触れそうで触れない。マフラーの隙間から白い息が浮かんでは消えていく。
心地良かった秋を連れ去った冬は未だに寒さを纏ったままで、終わりそうもない。できればこのまま春を連れてこないでほしい。
「寒いな」
そりゃ寒いでしょと突っ込みたくなる。マフラーもしていないし、手袋もない。少し大きめのダッフルコートを着ているだけなのだから、一月のこの時期は辛いだろう。
「マフラーくらいすればいいのに」
「俺すぐどっかに忘れてくるから、マフラーは買わないことにしてんだよ」
「じゃ、我慢しかないね」
そういえば前にアキラがしていた紺色のマフラーはいつの間にか見なくなった。アキラは昔から物をすぐにどこかになくす。その度に私が探し回るので大変だ。
たとえば提出しなければならない学校のプリントや、家の鍵や自転車の鍵。必要なものを簡単になくすから、その癖をどうにかしてほしい。
「なくす癖直さないと、そのうち取り返しのつかないものなくして困ることになるよ」
「大事なものは絶対なくさないから大丈夫」
なにが大丈夫なのか全くわからない。マイペースなアキラには、きっとなにを言っても無駄だろう。
「ちょっと待ってて」
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