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「俺はヒナのこともっと知りたいよ」
私のこのぐちゃぐちゃな醜い感情を知られてしまうのが怖い。避けられない別れをどう迎えたらいいのだろう。
緑色の苔が浮かんでいるプールの周りをただぐるりと回ったあと、旧校舎に忍び込んだ。この旧校舎は部活の備品置き場や更衣室代わりになっていて、昼間は誰もこない。
本当に私たちだけの世界のようだった。
「この部屋に連れて来たかったんだ」
窓には暗幕がかけられていて、部屋の中は真っ暗だった。アキラは部屋の電気をつけると、隅っこにあるダンボール箱から小さな箱を取り出して私に見せてくる。
「見てこれ」
箱には『家庭用プラネタリウム』と書いてある。どうしてこんなものが学校に置いてあるのだろう。
「テニス部の人に聞いたんだけどさ、前の先輩の忘れ物らしい」
離れてしまった手に寂しさを感じながら、アキラが箱からプラネタリウムの機械を出しているのを眺める。
「星好きだったよな、ヒナ」
「覚えていたんだ」
「忘れるわけないじゃん。星見れないって泣いてたことあったし」
アキラは過ごした日々を忘れないでいてくれている。泳げなかったこと、私の家とアキラの家で家族旅行に行ったとき星を楽しみにしていたのに曇っていて見れなくて泣いたこと。
今日のこともアキラの中で忘れずにいてくれるのかな。
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