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「電気消すよ」
真っ暗になった部屋の中で私とアキラは床に座って、プラネタリウムの機械から溢れ出す星々の輝きを見つめる。
音のない私と彼だけの空間は、優しい光が包んでいる。そっと手を重ねられて、引き寄せられるように握られて心臓がどきりと跳ねる。
「冬の雨って曲聴いた?」
アキラに借りていたCDの中で私が一番聴いていた曲だ。
「うん。あの曲好き」
「俺も。……あの曲聴いたとき、自分と同じ気持ちだって思った」
私も自分と同じ気持ちだと思って聴いていた。冬を惜しみ思い出を手放したくないと必死に願う歌詞に込められた切なくて、優しい想い。
「冬が終わらなければいいって思うよ」
アキラは今どんな表情をしているのだろう。見えなかったアキラの心情が、暗闇の中で見えてきて、彼の指先が少しだけ強張った気がした。
「ヒナとこのまま一緒にいたい。なんで俺、まだ中学生なんだろう」
ぽたりと一筋の感情が頬を伝う。私も思うよ。どうしてまだ中学生なんだろう。
すぐに会えない距離に行ってしまうアキラを本当は引き止めたい。だけど、私はそれをする術を持っていないんだ。
「私も春になってほしくない。大人になんてなりたくない。でも……早く大人になりたいよ」
私たちは一緒に過ごした日々を過去にして、風化させてしまうのかな。だけど、大人になれば一緒にいられるようになるかもしれない。
「今日のこと私忘れない」
「俺も忘れないよ」
駆け落ちなんて言って授業をサボったこと。
手を繋いで内緒で屋上へ行ったこと。
冬のプールを一緒に眺めたこと。
旧校舎で星を見たこと。
全部忘れない。
本当は少し前から気づいていた。
いなくなると言われて初めて、こんなにも離れがたい理由の正体を知ってしまったんだ。
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