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人に見つからないように学校を探検しているうちに、放課後がやってきてしまった。部活が始まったタイミングで他の生徒たちと鉢合わせをしないようにこっそりと学校を出る。
相変わらず寒そうな首元のアキラに自分がしていたマフラーを押し付けた。
「あげる」
「ヒナが寒いじゃん」
「いいの」
今の私に渡せるのはこれだけだ。アキラが引っ越しても気軽に会いになんてきっといけない。マメな連絡を取ることが苦手なアキラとは、あんまりメッセージでのやりとりや電話なんてしないだろう。
「なくさないで。……それだけは、なくさないで」
アキラはすぐ物をなくしてしまうけれど、このマフラーだけはどこかへ置いてきぼりにしないでほしい。
「今年の冬が終わっても、また冬はくるから。いやでも私のこと思い出せばいいよ」
「いやじゃなくても思い出すよ」
私だってなんども思い出すよ。どの季節もアキラとの思い出がある。あのマンションに帰るたび、一緒に歩いた日々がずっと心に残って思い出すはずだ。
「大事なものは絶対になくさない」
「だって……前のマフラーはなくしたんでしょ」
「ヒナがくれたマフラーはなくさない」
私があげたマフラーを巻いたアキラはすごく嬉しそうに笑ってくれた。この笑顔を見れなくなってしまうなんて嫌だな。時間が止まればいいのに。私とアキラだけの世界になってしまえばいいのに。
「俺だってヒナと離れるのは寂しいよ」
「平気そうじゃん」
「そんなわけないだろ」
本当はもうわかってる。
アキラも寂しいって思ってくれていることをプラネタリウムのときに知れた。私だけが置いてきぼりじゃなかったんだね。
私もアキラも、ずっと動けずにいたんだ。
「なんでいつも一緒にいたのかわかんないの?」
「幼なじみだからでしょ」
「ヒナ、顔上げて。俺の目をちゃんと見て」
アキラの大きな手が頬を覆うように添えられて、私の顔を上に向かせてきた。
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