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アキラを残して、近くにある自動販売機に駆け寄った。ラインナップを吟味した後、一番下の段のホットココアのボタンを押した。取り口から出すと手袋越しからも暖かさがじんわりと伝わってくる。
「ん!」
寒そうに鼻の頭を赤くしているアキラにホットココアを差し出した。少し驚いた様子で受け取ったアキラは不思議そうに「俺に?」と訊いてくる。
「頼みごとでもあんの?」
「こないだ……勉強教えてくれたでしょ」
可愛げなくぶっきらぼうに伝えてしまい後悔したけれど、アキラは顔をくしゃっとさせて笑っていた。
「〝お礼〟ってことだな」
言葉足らずな私の気持ちをアキラはいつもすくい上げてくれる。私はそれに甘えてしまっているのかもしれない。
「ヒナ、ありがと」
アキラが笑ってくれる。それだけで冬の寒い帰り道も悪くないと思えるのはどうしてだろう。幼なじみで同じマンションに住んでいて、家族ぐるみの付き合い。そんな私たちの関係は友達でもなく、恋人でもない。
ただの幼なじみで、もうすぐ〝さよなら〟をする人。
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