一日だけ、駆け落ち

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 夕食が終わって、部屋に戻ると真っ白なCDジャケットが目に止まった。アキラから借りたものだ。  透き通るような歌声で、少し切ないメロディーの曲調。癒されるけれど、苦しさが残る。それはたぶん、自分の心情と重ねてしまったから。  なんども聴いてしまったのは、冬の雨という曲だ。冬を惜しみ思い出を手放したくないと必死に願っている歌詞。  私も冬が過ぎ去るのが嫌で、アキラとの日々を終わらせたくない。だからこそ、この曲をなんども聴いてしまう。けれど、このCDを忘れないうちに返さなければいけない。アキラが近くにいる日々はあと少しだ。  考えないようにして、現実から逃げていた私もそろそろ向き合わなければならない。 「ちょっとアキラに借りてたもの返してくるね」  リビングにいるお母さんに行き先を告げてから、CDを持って家を出た。すぐそこだから平気かと思ったけれど、外気はかなり冷え込んでいて身震いした。  小走りで階段を降りてアキラの家へと急ぐ。マンションの廊下を照らす街灯がチカチカと眩しくて、目の奥が少しだけ痛んだ。もう少ししたら、この階に行くこともなくなるのかと再び寂しさが心を覆いはじめる。  インターフォンを押すと、少ししてゆったりとしたダークグレーの部屋着姿のアキラが出てきた。 「これ、ありがとね」 「今度でよかったのに。そんな薄着で出てきたら風邪ひく」 「返せるうちに返しておきたいって思ったから」  私の言葉にアキラがほんの少しだけ、眉根を寄せた。  触れないようにしていたけれど、もうあまり時間が残されていないことは私もアキラもわかっている。 「引っ越す日、三月三日だって」 「え、じゃあ、終業式は出れないの?」 「たぶん出ない」
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