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翌日、アキラが言ったことが本気なのか半信半疑だったのでいつも通り学校へ行く準備をしておいた。
駆け落ちなんて現実的ではない言葉だけど、アキラは〝一日だけ〟と言っていた。そんなの駆け落ちなんかじゃなくて、きっと思い出作り。
携帯電話がテーブルの上で振動した。確認するとアキラからのメッセージが届いている。
『今から行く』
たった一言だけど、私たちの間ではよくあるやりとりの一つ。
今日も寒いと天気予報で言っていたので厚手のコートを着て、赤のギンガムチェックのマフラーを巻いた。使い古したスクールバッグを肩にかけて、家を出る。
そろそろアキラも来る頃だろうと思って家のドアの前で待っていると、予想どおりアキラがこちらに向かって歩いてくる。今日も防寒具はコートだけのようだ。
ただアキラに身を任せるように半歩後ろをついていく。けれど、彼が進んでいる方向はいつもと変わらない。
「どこに向かってるの?」
「学校」
昨夜言っていた駆け落ちは冗談だったのだろうか。少し落ち込んだ自分がいることに内心驚きながらも、「わかった」と微笑んだ。
「ヒナと行きたい場所があるから」
アキラがどこに行きたいのか見当もつかないけれど、今日はアキラについて行こう。学校が近づくにつれて人が増えてくる。昨日と変わらない光景なのに、なんだか悪いことでもしているみたいな心境だ。
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