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靴を履き替えて、一度教室に向かうのかと思っているとアキラに手を掴まれた。
「え、どうしたの?」
「そっちじゃない」
引っ張られるように教室とは逆方向へと足を進めていく。昔もこんなことがあった。私が迷子になったときだ。泣きじゃくる私の手を引いて歩いていたアキラの手は小さいのに力強かった。中学生になったアキラの手はあの頃よりもずっと大きくて、骨っぽくて男の子の手だった。
「授業は?」
「だって、駆け落ちだろ」
現実味のない駆け落ち。アキラは私の手を離さずに、階段を上っていく。三階までいったところで息が上がってしまい、アキラの手を引っ張る。
「ねえ、どこまで行くの?」
「あと少しだから」
なだめるように言われて、それ以上は文句が言えず階段を上っていく。手は繋いだままで、今更恥ずかしくなってくる。
アキラにとっては、きっと大した意味なんてないのだろう。伝わってくる温度が心臓の鼓動を加速させていく。なにを考えているんだろう。
たどり着いたのは最上階だった。鉛色の扉の鍵穴に、アキラはポケットから出した銀色の鍵を差し込んだ。
普段は立ち入り禁止のこの場所の鍵をどうしてアキラが持っているのか不思議で聞いてみると、体育倉庫の鍵を戻しに行ったときに拝借したと悪い顔をして笑った。
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