終着駅

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 死者という事は、生者としての経歴も存在する筈ですが…」 「…私はただ、私として、もう少し生きていたかったんです。  こうしてここで働けば、少なくとも私という自我は存在し続ける事が出来ますから」 「哲学的ですね…」 「無様に自分という概念にしがみ付いているだけですよ。  …私は、コーヒー農園を経営する父の元に生まれました。  …当時は分かりませんでしたが、今思えば…あんな日々を、生き地獄と言うのでしょう。  決して楽な家計とは言えませんでしたし、いつもいつもコーヒー農園の手伝いで自由な時間など一時もありませんでした。  お酒を飲んで暴れ回る父、稼いだお金でマリファナを買う母、一日の僅かな食べ物を巡って喧嘩が絶えない姉弟達。  それでもコーヒー農園があったおかげで、一日、一日を、どうにか乗り越える事が出来ました。  …数百年に一度とも呼ばれる巨大ハリケーンが、父の農園を壊滅させるまでは」 「…研究をしている時も思いましたけど、神様って本当に残酷ですね」 「奇遇ですね。当時の私もそう思っていました。  結局父は膨大な借金を背負い、父は出稼ぎで、母は売春宿で、姉弟達はお金持ちに買われたり、父と一緒に出稼ぎに出たりして。  …そんな中、私は、買われました。     
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