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ベンさんの手を取って街を歩いていると、人々に好奇の目を向けられる。シギュルズが来るのは久しぶりのことだから、彼等もつい見てしまうのだろう。食料の仕入れに使っている馴染みの八百屋さんや肉屋さんに挨拶をしながら、ゆっくり進む。
教会の前に来たところで、丁度入り口からレキさんが出てきた。
「なんだ。今晩はヒルダちゃんに会えないのかあ」
こっちを見るなり、残念そうな声で言った。
「昨日来たばかりじゃないですか。あんまり私のところに通ってばかりいると、奥さんに愛想尽かされちゃいますよ?」
レキさんは常連さんだ。よく来てくれるのはありがたいのだけれど、奥さんには少し申し訳ない。
「そうなったら、ヒルダちゃんが俺の面倒見てくれよ」
「絶対に、嫌です!」
そんなやりとりをして2人で笑っている時も、ベンさんは俯き気味に私の半歩後ろにいるだけだった。そんな様子を見たレキさんは、ベンさんに一言「頑張りなよ」と声を掛けると、私たちが来た道を去っていった。「明日は待っててくれよ~」などと大声で私に手を振りながら。
その後も、時々建物や街についての紹介をするけれど、一言二言返事が返ってくれば良い方。私が一人喋り続け、彼は大抵黙って聞いているだけ。いや、本当に聞いているのかどうかも分からない。でも、陽気でいろという方が無茶な話で、ここに来る人は、最初は誰だってこんな調子だ。私も、こういう様子には慣れている。それでも、目の前でこういう顔をしている人がいるのは辛い。明日の朝は、笑顔で旅立ってくれれば嬉しい。
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