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「おはよう、トト」
木々の間から朝日が顔を出し、まだ薄暗い空が青く広がり始めた。
深い森の中、樹齢100年は超えていそうな大きな木の根に寄りかかっていた少女が、隣に伏せる動物をそっとなでた。
少女は、腰まで伸びた、少し癖のある栗色の髪を蔓で束ねた。青く澄んだ大きな瞳を持つ面持ちは美しいが、まだどことなくあどけなさが残っている。
「やっぱり……思い出せないな」
少女は、ところどころ汚れたベージュ色のワンピースを着て、茶色の革靴を履いている。
こんな森の中にいるには軽装すぎるくらいで、持ち物も何も無い。そして、その姿とは似つかわしくないペンダントを付けていた。丸いピンクゴールドのチャームには、紋章が描かれている。
「今日こそ、誰か人に会えるといいな。トト、今日も乗せてくれる?」
トトと呼ばれた動物は、長い枝のような角があり、短い茶色の毛に覆われ、黒く大きな目をしている。少女が乗っても十分な体格だ。
トトは返事をする代わりに少女の頬をそっと舐めた。微笑んだ少女がトトにまたがると、トトはゆっくりと立ち上がり、丘を下って太陽の方角へ進み始めた。
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