第1章 1.森の中から

3/5
前へ
/153ページ
次へ
半日ほど、経った頃だった。 「あっ!」 少女が目を細める先に、小さな集落が見えてきた。 だんだんと森の木々はまばらになっていた。 「だれかいる!行ってみよう!」 森で器用に木を避け走っていたトトが小走りになり、やがて歩き出した。 集落の入口で、トトと少女に気づいた老人が驚いた表情で固まる。 「これは驚いた……茶獅子を手懐けとるとは」 老人が見ていることに気がつくと、少女はトトから降り、深くお辞儀をしてから近づいていった。 「こんにちは。」 少女が話しかけたのは、集落の外で小麦の収穫をしている老人だった。 老人は、白髪混じりの茶色の髪に、顎髭も生やし、農作業がしやすそうな、汚れた服を着ている。 老人は小麦の束を地面に置くと、ゆっくりと少女に歩み寄った。 トトは静かに少女の後ろに座る。 「こんなところに客人とは。とんとなかった。お嬢さん、こんな小さな村に何用かね?」 少女は少し言葉を詰まらせ、ゆっくりと話し始めた。 「ミーナと申します。この森の奥の祠から来ました。名前以外、なにも思い出せないんです。おじいさんも、私のこと、わからないんですね…」 ミーナと名乗った少女はがっくりと肩を落とすと、人に会えた安堵からか、崩れるように倒れてしまった。
/153ページ

最初のコメントを投稿しよう!

50人が本棚に入れています
本棚に追加