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半日ほど、経った頃だった。
「あっ!」
少女が目を細める先に、小さな集落が見えてきた。
だんだんと森の木々はまばらになっていた。
「だれかいる!行ってみよう!」
森で器用に木を避け走っていたトトが小走りになり、やがて歩き出した。
集落の入口で、トトと少女に気づいた老人が驚いた表情で固まる。
「これは驚いた……茶獅子を手懐けとるとは」
老人が見ていることに気がつくと、少女はトトから降り、深くお辞儀をしてから近づいていった。
「こんにちは。」
少女が話しかけたのは、集落の外で小麦の収穫をしている老人だった。
老人は、白髪混じりの茶色の髪に、顎髭も生やし、農作業がしやすそうな、汚れた服を着ている。
老人は小麦の束を地面に置くと、ゆっくりと少女に歩み寄った。
トトは静かに少女の後ろに座る。
「こんなところに客人とは。とんとなかった。お嬢さん、こんな小さな村に何用かね?」
少女は少し言葉を詰まらせ、ゆっくりと話し始めた。
「ミーナと申します。この森の奥の祠から来ました。名前以外、なにも思い出せないんです。おじいさんも、私のこと、わからないんですね…」
ミーナと名乗った少女はがっくりと肩を落とすと、人に会えた安堵からか、崩れるように倒れてしまった。
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