西瓜代理戦争

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西瓜代理戦争

 ―――またこの季節がやってきた。西瓜代理戦争。  俺たちは、セミの声を聞きながら家の二階の部屋でそれぞれ“スイカ”を食べていた。  「毎年のことだけどさぁ」  「んー?」  「お前それ、美味いのか?」  「んー」  俺たちはこれを、西瓜代理戦争と呼ぶ。  西瓜といえば、あくまで夏の風物詩、緑と黒のしましま模様のスイカのことである。一般的には。  しかし、こいつのスイカは違う。  こいつの食べているスイカは、分類でいうとアイスキャンディーである。  スイカを美味しそうな形に切り取ったような色と形をしており、果汁は入っておらず、種の代わりにチョコレートの粒が中にちりばめられている。  「だって、生のスイカ不味い。これ、冷たいしめっちゃ美味いよ」  これが、こいつがアイスキャンディーのスイカを食べる理由。  こいつは、スイカに限らず瓜系がダメで、メロンもキュウリも食べられない。  理由は、瓜は独特の匂いがして、それが苦手だからだという。  「お前なあ、この、生のスイカを食べてこその日本の夏だろー」  俺は、切り分けられた生のスイカをほおばりながら言う。美味い。  ときどき、種を「ぷっ」と吐き出す。  「えー。」  相手から非難の声があがる。  「だって、くさい…。それに、このチョコのつぶつぶ感がたまらない」  「俺は、そのつぶつぶ感が嫌いなんだよ。なんで入れるんだよそんなの」  「いや、種だし。こう、歯でカリッと噛むのが美味しいの」  「種は、ぷっ、と吐き出すのがいいんじゃん。ほんと、なんでそんなの入れるの。なんでシャキシャキの中につぶつぶ入れるの」  なぜだ、わからない。  だが、こいつにとっては、そこがまた美味いところなのだという。  今日は花火大会。  家の二階にある部屋から花火が見られるという絶好な環境。  陽が落ちてきて、そろそろかという頃。  たまにスイカを食べるたびに、この言い合いは勃発する。  喧嘩ではなく、ただの主張だけれど。  この紛争が始まって終わるまで、俺たちの夏は続く。
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