1人が本棚に入れています
本棚に追加
/4ページ
◇
噂はしばらくすると収まった。
そして学年が上がると私たちはクラスが離れた。
みんなその噂のことはもう忘れてしまっていることだろう。
そう思っていた。
クラスが変わり、しばらくの間顔を見る機会もなかった彼と偶然廊下で出会った。
私は他クラスに借りた教科書を返した帰りだったので一人だったが、彼は友人達と一緒だった。三人一緒に居た彼の友人全員、私とも去年同じクラスだ。
「お、委員長じゃん。おひさ」
委員長と呼ばれるのはその時の名残。
「もう委員長じゃないけどね」
推薦されてしまったからやっていただけで、もともと私はそういう性格ではない。
「そういや、お前ら噂になってたこともあったよなぁ」
彼が連れていた友人達がにまにまとした笑みで彼を見る。
私は少し驚いた。てっきり冷めたものだと思っていたから、彼らはもうその話をすることはないのかと。
彼は虫を追い払うように手を振りながら「うるさいうるさい」と煙たがる。でも彼らは仲が良いから、彼も心底嫌そうな顔はしていない。
「あれっ、お前、委員長のこと好きなんだっけ?」
「あーはいはい。そーですね」
彼は友人達を適当に流しながら、彼らの背中を押して去ろうとする。
からかわれて困るのは事実だけれど、でも久しぶりにあったのだからもう少し離しておきたいと思うのも正直なところ。
「おっと、やりすぎたか?」
「まぁまぁ。俺達は退散するから」
あとはごゆっくり、と三人だけ去る。彼だけその場に残り、友人達の背を「全く……」と腕を組みながら呆れたように呟いた。
今が昼休みでも放課後でもないのが悔やまれる。普通の休み時間は十分しかない。
今手元に時計がないので確かではないが、五分残っていればいいほうだ。
「なんか、悪いね、委員長。あいつらしつこくってさ」
彼は友人達が去って行った方を少し見ながらそう言った。
私は首を横に振る。この状況を彼らがどういうつもりで作り出してくれたのかは分からないが、どちらかというと感謝に近い。
最初のコメントを投稿しよう!