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「渚、大好き。今まで付き合った誰よりも」
「それ、五年前に聞きたかったな…………」
笑顔の真帆とは対象的に私は苦笑していたけれど、目尻からこぼれた涙は、本当の涙だった。真帆は頬に流れたその涙を舌先で拭ってくれた。
――真帆……好き。親友としてじゃなくて。キスしたいし、抱きたいとも思ってる。
――うん。知ってる。渚、わかりやすいもん。でも、付き合えないんだ。アタシ、レズじゃないし。それに彼氏、もういるし。三組の…………。
夜が過ぎて、目を覚ましたとき、私は裸で家のベッドで寝ていた。手を伸ばして、隣を確認したけど真帆がいるはずもなかった。
真帆は今、誰といるのだろうと天井を見上げながら考えた。
考えただけでそれ以上は何も想像しなかったし、できなかった。
安物のシガレットケースからメンソール煙草を一本引き抜くと乾いた唇にくわえ、百円ライターで火をつけた。
カーテンの隙間から入る朝の光が紫の煙をユラユラと照らすのが、なんとなく、むなしく見えた。
私は彼女に対して何も感じなくなっていたことに気付く。
喪失感とも違う、いなくても会えなくても平気な存在。
真帆に対する思いが過去に変わっていた。
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