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「そのために来たんでしょ。シャワー。先に浴びてるよ」
私は作業をするようにシャワーを浴びた。
ありとあらゆる感情で胸が張り裂けそうだった。恋に幻想を抱く年齢でもないし、しないようにしてきたはずだった。
私の肌から目を離すように、真帆も入れ違いに入っていった。
「シャワー出にくいよ」
そう、ひとこと彼女の背中に言ってあげた。
「うん」
と、かろうじて聞き取れた。
お互いに緊張してるのが空気でわかる。
「いつの話してんの……か」
バスローブをまとってソファに深く沈み込みながら呟いてみた。
私の中で真帆は五年前で止まっていた。現実の真帆は五年の時を過ごしていた。
きっと、彼女の中でも五年前の渚で止まっているのだろう。
寂しい反面、それで良い気もする。五年の間にお互い知られたくないこともあるというのは私がしている仕事や真帆の苗字の時点でよくわかる。
私はバスルームから出てきた真帆にバスタオルとバスローブを手渡し、今度はベッドに腰かけた。
このまま、服を着て帰る選択だって真帆にはある。
彼女はその素振りを見せることもなく、隣に腰かけて、頭を私の肩に乗せてきた。
それは寄り添い合う恋人同士のようだ。
…………ずっと、こうしたかった。
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