序章 光輝の手は復讐のために

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 その手にアサレラのマントの裾を握りながら。 「………………おまえ…………」  ぽつりと落ちる声は、雨粒にも似て清涼で、どこか懐かしい響きがある。 ――……誰だ? 「おまえは…………誰だ」  まさしくアサレラの放つべき言葉である。 「そ、そういうきみこそ…………それに、どうしてこんなところにいる?」  なぜかどぎまぎしながら、アサレラは問い返す。  向かい合う二人のあいだを、風がさあ、と通り抜けていった。  アサレラの短い銀色の髪が揺れ、男の長い薄紫色の髪がたなびく。男の纏う臙脂色の長い裾が翻り、いまだに掴まれたままのアサレラのマントが不格好に上下する。  甘く、かすかに青くささの混じった花の匂いがほのかに漂う。  冷気を帯びた風がおさまったころ、アサレラはいつまでもマントを離さない男へ、口を開いた。 「………………とりあえず、その手を離してもらえないか」  アサレラの指摘に、男は今気がついた、というように自分の手元を見つめ、それからゆっくりと細い指を広げた。  解放されたマントの裾がアサレラの足下に舞い戻る。 ――なんだこいつは…………。     
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