49人が本棚に入れています
本棚に追加
その手にアサレラのマントの裾を握りながら。
「………………おまえ…………」
ぽつりと落ちる声は、雨粒にも似て清涼で、どこか懐かしい響きがある。
――……誰だ?
「おまえは…………誰だ」
まさしくアサレラの放つべき言葉である。
「そ、そういうきみこそ…………それに、どうしてこんなところにいる?」
なぜかどぎまぎしながら、アサレラは問い返す。
向かい合う二人のあいだを、風がさあ、と通り抜けていった。
アサレラの短い銀色の髪が揺れ、男の長い薄紫色の髪がたなびく。男の纏う臙脂色の長い裾が翻り、いまだに掴まれたままのアサレラのマントが不格好に上下する。
甘く、かすかに青くささの混じった花の匂いがほのかに漂う。
冷気を帯びた風がおさまったころ、アサレラはいつまでもマントを離さない男へ、口を開いた。
「………………とりあえず、その手を離してもらえないか」
アサレラの指摘に、男は今気がついた、というように自分の手元を見つめ、それからゆっくりと細い指を広げた。
解放されたマントの裾がアサレラの足下に舞い戻る。
――なんだこいつは…………。
最初のコメントを投稿しよう!