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いくら見た目がよくても、初対面の人間のマントを掴んで離さない、という奇行を打ち消すには至らない。
アサレラはマントの裾にくっきりと刻まれた皺を伸ばそうと試みたが、手を離すと再び皺が寄ってしまう。
数度の試行ののち、アサレラは諦めてため息をついた。どうやらこの男、軟弱そうな見かけに反して力は強いらしい。
「せっかく王都で買ったのに、どうしてくれるんだ」
「……人を……探している」
一拍置いて、先ほどの問いかけに対する答えだと気づいた。
「人って……見ての通り、ここにはなにもないし……誰もいない」
男が睫毛を静かに伏せると、緑色の目に蒼い影が落ちる。
「…………たぶん、カタニアにいる」
「カタニアって……ウルティア王国か?」
ウルティア王国の南東、ダルウェント川の近くにカタニアという町があったはずだと、アサレラは酒場で時折見かけた大陸地図を脳裏に浮かべる。
確かカタニアは、セイレムから橋を渡ってすぐのところにあったはずだ。
「ああ、それでこんなところにいるのか。この先の橋を渡るつもりだな?」
あの吊り橋はコーデリア西部の住人ぐらいにしか知られていないのによく知っているものだと感心する。
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