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トラヴィスは魔物に滅ぼされたセイレム村で唯一生き残ったアサレラを保護し、あろうことかアサレラこそが聖剣を継ぐ聖者であると宣言した張本人だ。
アサレラはトラヴィスに対して、一応の感謝はしているが、人を見る目はないのだと、痛切に感じている。
憐憫と軽侮の入り交じる複雑な気持ちで、アサレラは子どもを見た。
「…………あ、ぼく、もう行かなくては。剣士どの、さきほどは失礼いたしました」
「いや、別におれは……」
子どもは胸の前で小さな両手を組み、目を閉じた。
「あなたの行く先を女神イーリスがお守りくださいますよう……」
「その必要はない!」
思考よりも早く怒声が飛び出し、アサレラの手はおのずと、腰に下げた剣へ伸びる。
グローブに隠されたアサレラの左手の甲には、涙滴を茨が取り囲むような形の痣が刻まれている。
「おれの進む先には誰の守りもいらない――神であれば、なおさらだ!」
セイレム村で炎に焼かれて以来できた痣は、偶然にもイーリス教の紋様と一致した。
父も母も故郷も神も、呪詛のようにアサレラへ災いを振りまくばかりだ。
「…………ごめんなさい。差し出がましいことを申しました」
子どもは、大きく見開かれて満月のようになった目を、やがて悲しげにそらした。
「ではせめて、ぼく個人に願わせてください。あなたの行く先に数多の幸がありますように……」
「あ……いや、おれは……」
二の句を継げずにいるアサレラへ子どもは頭を下げ、ぱたぱたと走り去っていった。
明るい日差しの中へ浮き上がるように紺色の裾が翻り、あっという間に人並みの中へ消えた。
「あの子、ドナウから来たんだろ。マドンネンブラウ人ってのは信心深いからな、あれは純粋に厚意だったはずだ。……兄さんは見たところ、不信心者のようだが」
老人の声には、アサレラの大人げない言動への非難がにじんでいる。
「…………そう……ですね」
アサレラは神を信じず、神を信じる者を軽んじている。だからといって他人に当たり散らして良いわけではない。まして相手は子どもだ。
決まりの悪さをごまかすべく、アサレラは荒っぽい手つきで兜を外した。
光がこぼれるように、短い銀色の髪があらわになる。
「じゃあ、そのマントと……革袋と、ベルトを」
老人は心得たように、手早く品物を用意する。
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