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「兄さん、もしマドンネンブラウへ行くなら気をつけなよ。あそこは熱心なイーリス教徒が多いからな」
苦笑して、アサレラは布袋から銅貨を取り出した。
銅貨が老人の手へ渡ったとき、老人の背後から恰幅の良い中年女が大股で近づいてきた。
「聖者様じゃありませんか!」
甲高い声に、アサレラはぎくりとする。
「旦那っ、聖者様からお金をいただく気かい。魔王を倒してくださる方だってのに!」
「なんだって?」
「お触れを見なかったのかい、聖者様は銀の髪をした剣士だって!」
「銀の髪…………」
老人が、こわごわとアサレラを振り返る。
アサレラは、購入した品々をひったくるように取り上げた。
「じゃ、じゃあ、おれはこれで」
面倒なことになる前にと、アサレラは素早く踵を返した。
「聖者様! お、お待ちください! どうか、聖者様!」
その声から逃れるように、アサレラは駆け足で王都を去った。
◇◇◇
アサレラはコーデリアの地を歩いていた。
アサレラの購入した黒いマントにはフードがついているので、ひと気のある場所ではそれをかぶることにした。重装で身を守りながら戦うのは、やはりアサレラには合いそうもない。
王都オールバニーを北上すると、ラング大橋がある。国境であるダルウェント川を越えた先は、マドンネンブラウ聖王国だ。
マドンネンブラウ聖王国は、聖王の子孫が治める国である。聖王都ドナウのイヴシオン大聖堂に、聖剣レーゲングスは奉られているという。
コーデリア王トラヴィスはアサレラに、イヴシオン大聖堂まで赴き、聖剣を引き抜くことができるかを確かめるのだ、と命じた。
常であれば、身元の証明できない一介の剣士がマドンネンブラウとの国境を越えることなどできないが、トラヴィス王の文書があれば問題ないだろう。
無言で足を進めるアサレラの脳裏で、昨日の情景が突風のように吹き荒れ始めた。
昨朝、アサレラが目を覚ましたのはコーデリア城の客室だった。
どうやら魔物によって崩壊したセイレムで倒れているところを、駆けつけたコーデリア兵に助けられ、コーデリア城まで運び出されたようだ。
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