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マドンネンブラウ聖王国を治めるフェールメール家のオトマー王とエルマー王子が聖剣レーグングスを引き抜くことができなかったと発表されたのは、七年前の夏。大陸北部のローゼンハイム公国が魔王復活にともない滅亡した、その翌朝のことだ。
――そうだ。そして以降七年間、我らは聖剣の継承者を探していた。そしてようやく、あなたを見つけた……。
おのれをまっすぐ見下ろす厳然たる視線に、アサレラは口をつぐんだ。
――聖者アサレラよ、どうかコーデリアを、いや大陸を救ってほしい。魔王や魔物によって無念の死を遂げた人々のために、そして、犠牲となったあなたの故郷のために。
謁見の間へ、トラヴィスの声が厳かに響き渡った。。
さまざまな感情の荒れ狂うアサレラの胸中と対照に、なだらか裾の広がる周囲の山も、東へ伸びる平原も、いたって平穏だ。
秋の到来を感じさせる風が吹き、涼しさが汗ばんだ身体へしみる。
こうして秋風を受けていると、魔がはびこる世であることが嘘のようだ。
起伏のない土地に恵まれたコーデリア東部では農業が盛んである。もっと東へ足を伸ばせば広大に広がる田畑や、そこで作業をする農夫の姿を見ることができるだろう。とはいえアサレラが目指すべきはひとまずマドンネンブラウである。
――と、アサレラは足を止めた。
「………………あれ?」
立ち止まって見渡すと、周囲は山ばかりである。遠い東の方向へ、やわらかに色づき始めた大地が平らかに広がっている。
六歳のときに離れ、雪辱のため半月前に戻った、コーデリア西部――セイレム村。
北へ向かっていたはずのアサレラの足は、ひとりでに西へ進んでいたのだった。
アサレラは空を仰ぐ。
王都を発ったのは朝だったが、太陽はすでに天頂を過ぎ、金色の光を帯びている。
今から東部へ急いでも、今日中に王都へ戻ることはできないだろう。
そういえばセイレムの北東にも橋があったはずだと、アサレラは思い返す。名もなき吊り橋はウルティアとつながっていたはずだ。
ここまで来てしまった以上、オールバニーへ戻るよりもウルティア回りで行くほうが良いだろう。
しかし、そのためにはセイレムを通らなければならない。
アサレラは惑い、剣の柄をぐっと握った。
確かめてやろうと、アサレラは思った。
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