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大地が乾き切った季節の早朝は冷える。
昼の暑さとの温度差で、身体に堪える程だ。
井戸に水汲みに行った帰り、シオナは里外れで僅かに残った木の葉の緑に心を癒す。
里外れまで行くと、所々に未だ緑が残っていて、世界が枯れ切ってしまっていないことに安堵を覚える。
シオナにとって雨乞いは、ただ髪を奪われるだけではなく、知らず雨を降らせなければならないという重責を、担わされてきたのかもしれない。
暗くなる思考を頭を振って追い出すと、もっと緑の葉を広げる低木に近付いて行き掛けて、シオナは足を止めた。
低木の反対側に誰かいる。
水を絞るような音が聞こえて、訝しく思った。
そうっと枝葉に隠れた木の反対側を覗き込むと、薄い茶色の髪が目に入った。
その人が振り返る。
振り返って背中を伸ばした顔の位置は高い。
辿った先で、灰色掛かった濃い茶色の瞳と目が合って、シオナははっと目を見開いて、慌てて木の影に隠れた。
例の余所者の少年だ。
どうしてこんな場所にいるのかは分からないが、と思ったところで、さっきちらりと目にした彼の格好にあることに思い至ったシオナは、首に掛けていた手拭いを手で引っ張った。
「あの、これ。」
木の反対側から手を伸ばして手拭いを差し出す。
「ああ、悪いな。」
ややあって、少年の声が返ってきて、手拭いが手から滑り抜けた感覚があった。
シオナは手を引っ込めると、上半身裸だった少年の姿を思考から締め出そうと目を瞑った。
「起き抜けに水差し引っ掛けたんだ。まあ被ったのが自分で良かったんだけど。後で、司祭様に怒られるだろうな。」
ぼやく声が聞こえてきたが、シオナは無言を通す。
余所者と口をきいたとクラムに知れたら、面倒なことになりそうだと思ったのだ。
応えのないことは気にしなかったのか、少年はそれ以上は何も言わず、今度は服を叩き始めた。
もう少し日が登れば濡れた服も直ぐに乾くだろうし、寒くない季節だが、少しばかり気の毒になったシオナは、木から一歩身を引くと声を掛けた。
「その手拭い、あげるから服の下に挟んどくといいわ。」
言い残して、返事を待たずに歩き出した。
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