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「シオナ、二日後に儀式を行う。準備の方はくれぐれも滞りなくな。」
朝食の後、クラムが遂にそう宣告した。
「分かりました。」
それ以外の言葉など返す余地もない。
分かっていることだ、シオナは雨乞いの為だけに、里で養われてきたのだから。
動揺を押し隠して、食事の片付けをする。
震える手で、食器を落としてしまわないように、不自然に何処かにぶつけたり、ぼうっとしてしまうのを気付かれたりしないように。
いつもより丁寧に片付けを終えたシオナは、与えられた部屋に戻った。
部屋の戸をきっちり閉めて、頭に巻いた布を外し、降りてきた髪の毛を前に持ってきて指先に絡める。
伏せた目から突然涙が溢れて、シオナはそんな自分に驚いた。
シオナは動揺を抑えるように指で髪を梳く。
抜けて指に絡んだ髪の毛は、いつものように箱に仕舞った。
抜けてしまった髪の毛でも雨乞いに使えるとかで、小さい頃からクラムに言われて取っておく習慣がついていた。
「泣いたって、何も変わるはずがないのに。」
思わず口から出た独り言に苦笑する。
何故か、朝早くに出会ってしまったヴァラトヴァ司祭の弟子であるという少年の濃い灰茶色の瞳を思い出した。
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